2026年10月01日

年間約365回にもおよぶ毎日のインスリン注射を負担に感じ、旅行や会食などの場面で制約を感じていませんか。注射の回数を減らし、もっと自由な生活を送りたいと考える方もいるのではないでしょうか。
この記事では、2024年6月に日本で承認された週1回投与型のインスリン製剤「アウィクリ」について解説します。その特徴や従来の治療との違い、メリット、そして注意すべき副作用まで詳しく紹介します。
この記事を読めば、アウィクリがご自身のライフスタイルや病状に適した選択肢かどうかがわかります。今後の治療について主治医と相談するうえでの、大切な判断材料となるはずです。
アウィクリとは?週1回の注射で糖尿病を治療する新しい選択肢
アウィクリは、世界で初めて実用化された週1回投与型の基礎インスリン製剤で、主に2型糖尿病の治療に用いられます。一般名を「インスリン イコデク」といい、2024年6月に日本で承認された新しい治療薬です。
この治療の最大の特長は、これまで毎日おこなっていたインスリン注射が週に1回で済むようになる点です。年間の注射回数に換算すると、約365回から約52回へと、およそ7分の1にまで減らすことができます。
毎日の注射という時間的・精神的な制約から解放されることで、旅行や会食といった社会生活をより自由に楽しめるようになるなど、生活の質(QOL)の向上が期待されます。
アウィクリ(インスリン イコデク)の作用機序
アウィクリが週1回の投与で効果を発揮する秘密は、注射後に血液中の「アルブミン」というたんぱく質と結合する独自の仕組みにあります。
注射されたアウィクリは、血液中を流れるアルブミンと一時的にくっつき、いわば「薬の貯蔵庫」のような状態になります。この貯蔵庫からアウィクリが安定して少しずつ血液中に放出され続けるため、血糖値を下げる作用が途切れることなく持続するのです。
この仕組みによって、アウィクリの血中での半減期(薬の濃度が半分になるまでの時間)は、約196時間(およそ8日間)と非常に長くなりました。
この持続的な作用は、食事をしていない時間帯(夜間や食間など)に肝臓から過剰な糖が放出されるのを抑える「基礎インスリン」の役割を果たし、1週間を通して血糖値を安定させます。
従来の毎日打つインスリンとの違い
アウィクリと従来の毎日打つ基礎インスリンの最も大きな違いは、「注射の頻度」と「作用時間の長さ」にあります。
両者の特徴を下表に整理しました。
| 比較項目 | アウィクリ(週1回製剤) | 従来の基礎インスリン(毎日製剤) |
|---|---|---|
| 注射の頻度 | 週に1回 | 毎日1回 |
| 作用の長さ |
・約1週間持続 ・日々の微調整は不向き |
・約24時間持続 ・日々の微調整が可能 |
| 低血糖への対応 |
・作用が長いため、低血糖が長引く傾向 ・回復後も注意が必要 |
・作用が短いため、比較的早く回復しやすい |
| 投与を忘れた場合 |
・気づいた時点ですぐに投与 ・次回投与まで4日以上あける |
製品により対応が異なる |
このように、アウィクリは注射回数を劇的に減らせる一方で、作用時間が長いという特性から、日々の食事や運動量に応じた細かな投与量変更には向きません。低血糖が起きた場合も症状が長引く可能性があるため、注意が必要です。
どのようなタイプの糖尿病患者さんに推奨されるか
アウィクリは、毎日の注射を負担に感じている方や、生活リズムと血糖値が比較的安定している2型糖尿病の患者さんにとって、特に有用な選択肢となり得ます。
【アウィクリが推奨される方の例】
・毎日の自己注射に心理的・身体的な負担を感じている
・仕事や旅行が多く、注射のスケジュール管理を簡単にしたい
・注射を忘れがちで、治療の継続に課題を感じている
・血糖値の変動が比較的少なく、安定した生活を送っている
・ご家族や介護者に注射を手伝ってもらっている
反対に、日によって食事の量や活動量が大きく変動する方や、低血糖を頻繁に起こしやすい方は、日々の調整がしやすい毎日投与型のインスリンが適している場合があります。
アウィクリがご自身のライフスタイルや病状に適しているかどうかは、血糖コントロールの状態を総合的に見て判断する必要があります。まずは主治医とじっくり相談してみましょう。
アウィクリ治療のメリットと注意すべき副作用

アウィクリ治療は、毎日の注射から解放されるという大きな利点がある一方、その作用の長さゆえの注意点も存在します。特に、最も注意すべき副作用である「低血糖」は、従来のインスリン治療とは異なる特徴を持つため、正しい知識が欠かせません。治療の恩恵を最大限に受けるために、メリットと副作用の両面をしっかりと理解していきましょう。
週1回投与で得られる生活の質の向上
アウィクリ治療の最大のメリットは、注射が週に1回になることで、生活の質(QOL)が大きく向上する可能性を秘めている点にあります。年間の注射回数が約365回から約52回へと激減することで、日々の治療にまつわる時間的・精神的な制約から解放されます。
海外の臨床試験データを統合した解析では、アウィクリは毎日注射するタイプのインスリンと比べて、血糖コントロールの改善効果は同等であったと報告されています。つまり、血糖値をしっかり管理しながら、注射の回数だけを減らせるという、新しい治療の選択肢が生まれたといえます。
臨床試験で報告されている主な副作用(低血糖など)
アウィクリ治療において最も注意すべき副作用は「低血糖」です。薬の効果が約1週間続くという特性上、一度低血糖になると症状が長引いたり、回復したと思っても再び血糖値が下がったりする可能性があります。
【低血糖のおもなサイン】
・強い空腹感
・冷や汗が出る
・手足のふるえ
・動悸
・頭痛、ふらつき
特に、アウィクリは投与してから2〜4日目に血中濃度が比較的高くなるため、この時期に低血糖が起こりやすいとされています。
実際に、複数の臨床試験データを統合した解析によると、アウィクリは毎日投与型のインスリンと同等の血糖コントロール効果を示した一方で、血糖値が54mg/dL未満になる「臨床的に重要な低血糖」の発生率は、やや高い傾向にあったと報告されています。
万が一の事態に備え、ブドウ糖や砂糖を含むジュースなどを常に持ち歩き、低血糖が起きたときの対処法を事前に主治医や薬剤師とよく確認しておくことが極めて重要です。
治療を受けられない、または注意が必要な方
アウィクリは、すべての方に適した治療法ではありません。アウィクリの成分にアレルギー歴がある方や低血糖症状がある方は、原則として使用できません。また、重い低血糖を繰り返している方、食事や運動量の変動が大きい方、妊娠中・授乳中の方、ご高齢の方、肝臓や腎臓の機能が低下している方は、慎重な判断が必要です。
また、他の薬との飲み合わせによっては、アウィクリの血糖値を下げる作用が強まったり弱まったりすることがあります。治療中の薬がある方は、お薬手帳を持参のうえ、市販薬やサプリメントも含めてすべて医師に伝えてください。
| 影響 | 薬の種類の例 |
|---|---|
|
血糖値を下げる作用を 強める可能性のある薬 |
・他の糖尿病治療薬 ・一部の血圧の薬(β遮断薬など) ・一部の抗うつ薬 ・解熱鎮痛薬(アスピリンなど) |
|
血糖値を下げる作用を 弱める可能性のある薬 |
・ステロイド薬 ・甲状腺ホルモン薬 ・一部の利尿薬 ・経口避妊薬(ピル) |
アウィクリ治療の開始から継続までの流れと費用

アウィクリ治療は、初回診察でご自身の状態に適しているかを慎重に判断したうえで始まり、その後は週1回の自己注射を継続する流れが基本です。
治療にかかる費用は公的医療保険が適用されます。治療開始後も定期的な診察を通して血糖値の安定状況を確認し、最適な投与量へと調整していくことが、安全で効果的な治療の鍵となります。
初回診察から投与開始までのステップ
初回診察では、現在の血糖値や使用中の薬、生活習慣などを確認し、アウィクリが適しているかを判断します。開始する場合は、医師が投与量を決め、自己注射の方法を確認したうえで治療を開始します。
治療開始後は、血糖値を確認しながら週単位で投与量を調整します。開始直後は1〜2週間に1回程度、その後は血糖値が安定すれば月1回程度の通院が目安です。
注射を忘れた場合は、気づいた時点で投与し、次回の投与までは4日間(96時間)以上あけます。
治療にかかる費用の目安(保険適用)
アウィクリ治療は公的医療保険が適用されるため、窓口で支払う自己負担額は、薬代や診察料などを合計した金額に、ご自身の負担割合(1〜3割)をかけたものになります。
治療費のおもな内訳は、以下のとおりです。
・薬剤費:アウィクリ本体の費用
・診察料:医師の診察にかかる費用
・指導管理料:在宅自己注射指導管理料など、ご自宅での注射管理に対する費用
・検査料:血糖値やHbA1cなどを測定する検査の費用
・消耗品費:注射針や血糖測定チップなどの費用
アウィクリの薬価は、2026年9月時点で下表のとおり定められています。
| 製剤の種類 | 薬価 |
|---|---|
| アウィクリ注300単位 | 2,081円 |
| アウィクリ注700単位 | 3,809円 |
例えば、3割負担の患者さんがアウィクリ注700単位を月に4本(4週間分)処方された場合、薬剤費の自己負担額の目安は約4,571円(3,809円×4本×0.3)です。この金額に、診察料や検査料などが加わったものが、その月の総額となります。
実際の費用は医療機関や治療内容によって変動しますので、詳しくは受診の際にご確認ください。
アウィクリに関するよくある質問(Q&A)
アウィクリは週1回の注射で日々の負担を大きく減らせる画期的な治療薬ですが、新しい薬だからこそ、その使い方や注意点について疑問が浮かぶかもしれません。ここでは、治療を始めるにあたり患者さんからよくいただくご質問に、一つひとつ丁寧にお答えします。
注射を忘れた場合はどうすればいい?
アウィクリを打ち忘れた場合は、気づいた時点で注射します。ただし、次の注射までは必ず4日間(96時間)以上あけてください。
たとえば、毎週月曜日の予定を忘れて水曜日に注射した場合、次回は日曜日以降にします。その後の投与日は医師と相談して調整します。
打ち忘れを防ぐため、毎週決まった曜日に設定し、スマートフォンのリマインダーなどを活用すると安心です。
他の糖尿病治療薬との併用は可能か
他の糖尿病治療薬との併用は可能ですが、血糖値に大きく影響するため、必ず医師の厳重な管理のもとで行わなければなりません。
薬の組み合わせによっては、アウィクリの血糖値を下げる効果が強まったり、逆に弱まったりすることがあります。
【併用によって効果が変わる可能性のある薬の例】
| 影響 | 薬の種類の例 |
|---|---|
|
血糖値を下げる作用を 強める薬(低血糖リスク↑) |
・他の糖尿病治療薬(SU薬、ビグアナイド薬など) ・一部の血圧の薬(β遮断薬など) ・一部の抗うつ薬(MAO阻害剤など) ・解熱鎮痛薬(アスピリンなど) |
|
血糖値を下げる作用を 弱める薬(高血糖リスク↑) |
・ステロイド薬 ・甲状腺ホルモン薬 ・一部の利尿薬 ・経口避妊薬(ピル) |
まとめ
アウィクリは、週1回の注射で毎日のインスリン治療の負担を軽減し、良好な血糖コントロールを目指せる新しい選択肢です。
年間の注射回数を約7分の1に減らせるため、時間や精神的な制約から解放され、生活の質(QOL)向上が期待できます。
その一方で、作用が約1週間続くという特性上、低血糖が起きた際に症状が長引く可能性があり、正しい知識に基づく管理が重要です。
この治療法がご自身のライフスタイルや病状に適しているか、メリットと注意点をふまえ、まずは主治医に相談してみましょう。
参考文献
1.Insulin icodec: A novel once-weekly formulation for the treatment of type 1 and type 2 diabetes mellitus.
2. Once-Weekly Insulin Icodec in Diabetes Mellitus: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials (ONWARDS Clinical Program).
3. Efficacy and safety of once-weekly insulin icodec compared to once-daily insulin glargine U-100 in patients with type II diabetes: a systematic review and meta-analysis.
4. アウィクリ注 添付文書・RMP(PMDA)